分子標的薬剤(分子標的薬剤、英:molecularly-targeted drug)とは、病変部位にピンポイントで攻撃することで効果の強さ・副作用の少なさ両立を目指した薬剤である。正常細胞・病変部位の分子レベルの違いを見分け、病変部位の分子を標的とする薬剤故、この名前で呼ばれている。
病変部位の分子のみを攻撃する為に、様々な工夫がされている。例として抗がん剤のベバシズマブは、がん細胞への血管新生を阻止する(がんに栄養が行かなくなる)。これはEGRFという「血管を新しく作れ!」というシグナルを、ベバシズマブが捕まえ・無効化してしまうからである。そのEGRFは、成人した人間では怪我・手術部位以外では殆ど分泌されていない。それゆえ、ベバシズマブはがん細胞の分子だけを攻撃できる。
長所
分子標的薬剤をひとことで言えば「病変部分に、ピンポイントで攻撃できる薬」である。
その為正常細胞への攻撃が小さくなったためダメージが小さく、副作用が少なく済んでいる。例えば抗がん剤といえば昔は「朝から晩まで吐く」などのイメ―ジが強かったが、現在そのようなレジメンは少ない。
また効果も大きく、例えばこれまで治り様がなかった疾患(急性前骨髄性白血病など)も分子標的薬剤によって、治癒可能な疾患となった。
比較:従来の医薬品(分子標的薬剤でない医薬品)は病変部分のほかにも、正常細胞にも巻き添え的に作用してしまっていた。そのため副作用が大きい・効果も限定的とされていた。
病変部位に、ピンポイントで攻撃できる理由は?
➡病変部位に過剰発現する、特定の分子構造を標的として作用するため。
➡例えばリウマチ治療薬で分子標的薬剤にあたる「インフリキシマブ」は、リウマチ病変部位で過剰発現する分子構造「TNF-α」を標的として抑え込む。その結果、リウマチの炎症を強く抑えられ、なおかつ正常細胞へ影響が小さい。
高額医薬品
分子標的薬剤は、高額な医薬品が少なくない。すると年間の薬剤費も、やはり高額となる。例として、同じ関節リウマチの治療法で、「分子標的薬剤を使う場合」「使わない場合」で比較する。
関節リウマチに分子標的薬剤を用いる場合
●メトトレキサート錠2㎎ 4錠/分2朝夕食後(火曜日)
●インフリキシマブ点滴100㎎ 400㎎/2時間投与(隔月)
➡メトトレキサート錠2㎎「日医工」の薬価は85.7円。
年間53週間あるので、85.7×4×53=18164円
➡インフリキシマブ点滴100㎎「日医工」の薬価は43229円。
年間12か月あるので6回投与とし、43229×4×6=1037496円
合計106万円
関節リウマチに分子標的薬剤を用いない場合
●メトトレキサート錠2㎎ 4錠/分2朝夕食後(火曜日)
●プレドニン錠5㎎ 2錠/分1朝食後(毎日)
➡メトトレキサート錠2㎎「日医工」の薬価は85.7円。
年間53週間あるので、85.7×4×53=18164円
➡プレドニン錠5㎎の薬価は9.8円。
年間365日として、9.8×2×365=7154円
合計2.5万円
※薬価については2020年8月時点を参照した。
この通り、医療費を圧迫してしまう短所も併せ持つ。
分子標的薬剤の後発品
分子標的薬剤の特許切れであるが、後発医薬品とはよばれず「バイオシミラー(=バイオ後続品)」と呼ばれる。なお先発品と後発品の名称に関しては、下記の表を参照のこと。分子標的薬剤は一般的に「バイオ医薬品」に属す。

近年、このバイオシミラー市場が急拡大していることが知られている。こちらに日本国内に於ける、医薬品全般とバイオシミラーのみとの売上推移を示す。
全医薬品 | バイオシミラー | |
2016 | 104300億円 | 128億円 |
2017 | 105200億円 | 144億円 |
2018 | 103300億円 | 215億円 |
2019 | 106300億円 | 350億円(推計) |
2020 | ー | 450億円(推計) |
2021 | ー | 534億円(推計) |
バイオシミラーメーカーについてはリンク参照の事。
分子標的薬剤の売上ランキング(世界)
以下の様になる。
順位 2018年 | 薬剤 (一般名) | 売上高 (Million USD) | メーカー名 |
1 | ヒュミラ(アダリムマブ) | 25,485 | アッヴィ(ABBV) |
2 | エンブレル(エタネルセプト) | 10,181 | ジョンソン&ジョンソン(JNJ) |
3 | レミケード(インフリキシマブ) | 7,768 | ジョンソン&ジョンソン(JNJ) |
4 | オプジーポ(ニボルマブ) | 7,543 | 小野薬品 |
5 | キイトルーダ(ぺムロリズマブ) | 7,216 | メルク&Co(MRK) |
出典元:先発品各社の年次報告書(10K方式、又はAnnual Report)より抜粋
ちなみに低分子薬を含めた、全医薬品の売上No1 もヒュミラである。
分子標的薬剤の一覧
あまりに膨大なため、系統ごとに記載した。詳細は個別ページを参照のこと。
(作成中)
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