処方箋鑑査の手順(病院薬剤師の場合)

処方箋薬(内服・外用・自己注射薬)の鑑査では以下を気を付けて行う。

知識的には「注射箋鑑査」「DI業務」「疑義照会」とほぼ同じである。やはり大学での知識が必要である。

①相互作用(薬剤学が必要)
②重複投与の有無(薬理学が必要)
③患者のいまの状態×薬がふさわしいか(病理学が必要)
④その薬(類似薬)での副作用が無い事
⑤処方箋と現物は正しいかどうか(ヒヤリハット)

①相互作用

薬学部の薬剤学で習うので、薬剤師は気が付きやすいポイント(逆に医師・看護師では見落とすポイント・薬剤師しか止められないミス)。とくに他院受診があると発生しやすい。

②重複投与

医師が見落としがち。

特に配合剤が絡むととても多い。たとえば「アムバロ配合錠」が処方されていても、さらに追加してアムロジピン錠5㎎、と処方されてしまう。

<例題>
【A医院処方】
●フルニトラゼパム錠1㎎×2錠
 分1就寝前×28日分
【当院処方】
●ユーロジン錠®2㎎×1錠
 分1就寝前×28日分
●ジアゼパム錠5㎎×1錠
 頓用不眠時×28回分
患者の訴えで「最近夜は寝れないのに、日中は眠くて仕方がない。車の運転もぼんやりしてできず、事故を起こしかけた。」と相談あり。相談者は83歳男性。

・・・Ans:あきらかな重複で、中時間型の睡眠薬がフルニトラゼパム・ユーロジンと重なってしまっている。だいいち、83歳男性にフルニトラゼパム2㎎は多すぎるのだが、これは寝付けないと言われて増やした結果だろう。(医師は慎重投与薬でも知らずにバンバン使う為傾向が強い)よく入院時の薬チェック(管理人の施設では”検薬”と呼ぶ)において、こういう重複は散見される。普通入院後の内服薬は入院前とできるだけ同じにするものだが、このケースではそうできない。むしろ睡眠薬を2科とも全て止めて、ゼロから相応しい睡眠薬を試す。

ちなみに退院指導では、もとのA医院むけの紹介状で重複投与の旨を記載する(さすがにA医院へ行くなとはいえない、病院同士の関係性が悪化する為)。

<例題>
●クラリスロマイシン錠200㎎×1錠
 分1朝食後 28日分
●レボフロキサシン錠500㎎×1錠
 分1朝食後 5日分
・・・重複投与ではないか?このまま処方箋だしてもよいか?

・・・Ans:このまま出してよい。一見抗生剤の重複投与に見えるのだが、じつは重複ではない。クラリスロマイシン=14員環マクロライドは抗生剤としての効果というより、「免疫賦活作用」「菌のバイオフィルム形成(抗生剤・免疫からのバリア)を阻害」を狙って出す事があるからだ。

③患者の状態×薬

薬剤師が見落としがち。それは「薬は見ても、患者を見ない」人間が薬剤師には多いため(特に調剤薬局薬剤師)である。

[_su_spoiler title=”患者の状態とくすり”]
③-1腎機能とくすり

腎機能とくすり(外部リンク・このページが使いやすい)を参照

腎機能とくすりの使用問題は、かなり多い。腎機能は高齢化でだんだん悪化していくものだし、透析患者の病院受診率は高い(病院薬剤師との遭遇率が高い)からである。

(先ほどの腎機能とくすりの表を)全部覚えるのは難しい為、以下を考えるだけでもかなり楽である。

抗菌薬は全て腎機能注意と考える。
例外的に腎機能を気にしなくていい抗菌薬で、当院採用薬を覚えておく。
金属イオン入りの薬は全て注意(肝代謝できず腎排泄しかできない為)
NSAIDsは全て注意➡カロナールやペンタゾシンやトラマドールに変えると楽
腎排出させる系の薬理(アロプリノール等)

<例題>
●レボフロキサシン錠500㎎×1錠/分1朝食後・5日分
よく電子カルテをみると、「当院透析患者」の記載あり。

透析のたった2文字のために、大変危険である。レボフロキサシン錠の添付文書(外部リンク)をみると、このような記載あり。

つまり以下の様に、処方修正が必要。

●レボフロキサシン錠500㎎×1錠/分1朝食後・1日目
●レボフロキサシン錠500㎎×0.5錠/分1朝食後・3日目と5日目

③-2肝機能とくすり

肝機能とくすりを参照

肝機能が悪い人間に注意する薬も少し存在。但し、頻度的には腎機能とくすり問題の方が圧倒的に多い。

③-3認知状態とくすり

薬剤師が特に落としやすい箇所。

<例題>
●プランルカスト錠112.5×4錠/分2朝夕食後で処方
だが、夕食後の薬を結構飲み忘れている。退院後は独居で、管理してくれる人間はいない。

➡患者の状態をみると、認知悪く朝食後ならなんとか服用できているとする。分1にすれば自己管理できそうだ・・・とわかるので、類似薬で分1の「モンテルカスト錠10㎎」に変更してもらう。

<例題>
●アレンドロン酸錠35㎎×1錠/分1起床時(木曜日)
●エルデカルシドールCap0.75μg×1錠/分1朝食後
●トラマールOD錠25㎎×4錠/分4毎食後・寝る前
●アトルバスタチン錠10㎎×1錠/分1朝食後
入院時に以上の薬を持ち込んだが、朝食後以外の薬は飲み残しだらけ。聴くと「朝食は一緒に食べる娘が管理してくれるが、あとは娘がいないので自分では飲み忘れてしまう」とのこと。

➡どう考えても、朝食後以外のコンプライアンスが悪い。朝食後のみ、「一緒に食事する娘」が安全管理してくれそうである。

・・・ということは、用法をできるだけ朝食後にまとめてしまえば早い。すると、このように工夫できる。

アレンドロン酸錠35㎎
×1錠/分1起床時(木曜)
アレンドロン酸錠5㎎
×1錠/分1起床時(毎日)
エルデカルシドール
Cap0.75μg
×1錠/分1朝食後
そのまま
トラマールOD錠25㎎
×4錠/分4毎食後・寝前
ワントラム錠100㎎
×1錠/分1朝食後
アトルバスタチン錠10㎎
×1錠/分1夕食後
アトルバスタチン錠10㎎
×1錠/分1朝食後

※アレンドロン酸は半年に1度「テリボン注射」してもらう手もあり

※ちなみに患者が退院後、服薬ミスをして健康を害した場合、医師・薬剤師が責任を問われる可能性がある。『私はしっかり指導したのに!』では通らない。そうならない為にも、このような変更はかなり重要になる。

看護師による患者認知評価(長谷川式スケール)についても、管理の目安にはなる。

③-4患者の嚥下状態とくすり

薬剤師が落としやすい箇所。

<例題>
●アスパラカリウム錠300㎎ 9錠/分3毎食後。
電子カルテをくまなく見ると、看護師記録で「PEGにて薬・栄養剤投与」と記載あり

➡患者の状態をみると、PEG=胃瘻栄養である。つまり胃瘻管を通して投与であり、錠剤は粉砕しないと飲めない。

そもそも病院薬剤師であれば「NGチューブ」「PEG」「PEJ」などの専門用語は必須知識である。

【補足:病院薬剤師の必須知識】
●NGチューブ:鼻から胃までのチューブ。結構細い管。
●PEG:腹部に穴を開け、胃に直接いれるチューブ。太目だが錠剤は通らない。
●PEJ:腹部に穴を開け、小腸に直接いれるチューブ。太目だが錠剤は通らない。

④その薬(類似薬)での副作用が無い事

電子カルテの見落としはやりやすい。怖いのは一見問題ないように見えること。

<例題>
●ケトプロフェンテープ40㎎(10㎝×14㎝) 14枚/1日1回 腰部
本人への問診は未だ行っていない(これから始めての問診)

・・・薬剤部が非番の日であれば、このま患者に渡すところである。一見問題なさそうなのだが、「この薬での安全確認が取れていない」という穴がある。

ちなみにこの患者のケースは以下。

●薬アレルギーはあるかの問いに、「経験ない」と回答
●点滴や注射薬も含めてアレルギーがないのかと聞くと、以下の回答:「5年前に腰痛で注射した際、気分急激に悪くなって倒れ、ステロイドとアレルギー止めを打って寝込んだら軽快した」
●5年前の注射を検索すると、「カピステン注射」が被疑薬だった。
●薬アレルギー欄にカピステン注射の記載はなかった。その為管理人が記録し、同成分であるケトプロフェンテープを他剤変更するよう医師に電話した。
●テープ剤はロキソニンテープ100㎎へ変更。看護師が状態みながら慎重に使うよう、指示をした。(使えればロキソニン成分はホワイトと解り、以降安全使用できると解る為)

患者アンケートをさぼり、テープでアレルギーでた場合は非常に怖い展開である。

薬アレルギーというのは普段見かけないが・ひとたび発生すると非常に怖く油断できない。以下のような怖い事例も、実際に発生している。

蜂窩織炎の為に整形外科を受診。問診票に「CCL 全身真っ赤」と記載された。また「CCL禁 第一世代抗生剤はダメ」と記載されたお薬手帳を所持したが提出されず、診察医やほかの医療者にアレルギーが確認されなかった。
抗菌薬セファゾリン(第一世代セフェム)が投与されて数秒の時点で「口の中が熱い、全身が熱い」と訴え有。3分後には血圧測定不能となった。
(中略)
低酸素脳症を発症。(中略)積極的治療は行えず約11か月後、死亡した。

警鐘事例~事例から学ぶ より引用

【処方箋鑑査のさいのポイント】
●処方箋薬(注射箋薬) と 処方箋(注射箋)が正しいか見る
●処方箋薬(注射箋薬) と 電子カルテ記録(患者の状態:前述の①~④の項目)がふさわしいか見る

関連項目

病院薬剤師のシフト例

処方箋鑑査の手順(病院の場合)

注射箋鑑査の手順

DI業務

疑義照会の応対(病院の場合)

薬の交付(投薬)・服薬指導

病院薬剤師の業務例

薬剤師の職種別特徴

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