英国のヘルスケア・セクター(製薬企業)に属す、グラクソスミス・クライン(GSK)の株式分析について。
国 | 英国 |
配当金の税率 (配当税率) | 20.375% (=所属国の現地課税0% ×日本課税20%) |
業種11分類 | ヘルスケア・セクター |

売上高・利益・営業利益率

直近15年で、売上高は微減・利益も減少しており衰退気味。営業利益率は25%を回復してのびてきているものの、大手製薬としては平均的な水準である。
売上地域については、この様になっている。

地域別推移は、この様になっている。

直近4年だけを切り取れば、どの地域でも高成長である。
株主還元(配当金・自社株買い)

営業利益は2015年~の数年は大幅伸びであるが、長期的にはまだまだ回復しきっていない(左軸)。
発行株式数は2008年~まったくかわっていない。自社株買いストップはリーマンショックと時を同じくしている。株主還元は自社株買いではなく、もっぱら高配当によっておこなっている。

一株利益はやはり伸び悩み。それは営業利益の停滞と、自社株買いストップによる分母不変のため。
しかし今後も増配の余裕あり。それは一株利益>>配当金となっているため(=配当性向が100%を大きく下回る)。
株価・営業利益の伸び率(平均値と比較)

営業利益・株価とも市場平均(S&P500)にを大きく負けている。2015年~は営業利益・売上回復しているのに、株価はむしろ微減しているのが特徴である。
だが株価の伸びに配当金(しかも配当利回り高め)は加味されていないので、配当金を含めれば割と伸びている。
直近の株価
財政健全性
自己資本、他社資本(負債)、DEレシオの推移を示す。

この15年間で売上は停滞~微減だというのに、自己資本・負債とも倍増しているのが特徴である。
実は2018年に、スイスのノバルティス(NVS)より大衆薬部門(いわゆるOTC薬)を買収しているためである。グラクソといえば元々大衆薬が有名で、日本での知名度もトップだろう。(グラクソ社といってピンとこなくても、コンタック®の会社といえば解るはず)
他のメガファーマが「処方箋薬(特に分子標的薬剤)」を標ぼうするのに対し、このグラクソ社は「OTC薬」を標ぼうしている。
売上内容について
売上内訳は、医療用医薬品が半分で一般医薬品・ワクチンがもう半分を占めている。医療用医薬品はやや不安定だけど、ワクチン・一般医薬品はかなり手堅い売上である。

先ほどの文章でグラクソ社は一般用医薬品に力を入れている旨を記載した。その一般用医薬品の売上推移はこちらである。以下の通り、一般用医薬品は1.5倍に増加(ワクチンは2倍に増加)

そしてここからは、医療用医薬品の内訳を以下に示す。
医療用医薬品>代表的な個別薬の売上について

分子標的薬剤が目立たないのは、世界5位の売上(2018年)をほこる会社らしくない特徴。
ワクチン>代表的な個別薬の売上について

さきほどの医療用医薬品の売上が伸びない一方、ワクチン売上は大きく成長してきている。ワクチンと言えば「ファイザー」が有名だが、実はグラクソ社も強い。
個別商品について
商品名 | セレタイド®/アドエア® (一般名:フルチカゾン・サルメテロール配合) |
分類 | 低分子医薬品 |
治療対象 | 気管支喘息 |
特徴 | 気管支喘息の予防薬として有用な吸入ステロイド +長時間型β作動薬を配合した吸入。 配合吸入薬のパイオニアだった (その後アストラゼネカ:AZNのシムビコートも) |
商品名 | トリーメク配合錠® (一般名:ドルテグラビル・アバカビル・ ラミブジン配合) |
分類 | 低分子医薬品 |
治療対象 | HIV感染症 |
特徴 | 1日1回服用で有効で、3成分配合されたHIV薬。 同コンセプト薬はGILDのビクタルビ®。 |
商品名 | テビケイ錠® (一般名:ドルテグラビル) |
分類 | 低分子医薬品 |
治療対象 | HIV感染症 |
特徴 | 1日1回服用で有効。先ほどのトリーメク配合錠 の一成分でもある。 |
商品名 | アノーロエリプタ® (一般名:ウメクリジニウム ・ビランテロール配合) |
分類 | 低分子医薬品 |
治療対象 | CODP |
特徴 | COPDの予防薬として有用な吸入抗コリン +長時間型β作動薬を配合した吸入。 |
商品名 | ヌーカラ皮下注® (一般名:リラグルチド) |
分類 | バイオ医薬品(その中でホルモン製剤に属す) |
治療対象 | 気管支喘息 |
特徴 | 気管支喘息を引き起こすシグナル(インターロイキン6) を抑え込む薬。より根本から抑える為、 気管支喘息に対する著効性がある。 |
病院薬剤師からみた見立て
医療用医薬品の売上はかなり偏っていて、呼吸器系に強く、HIV薬も(ワクチン製造ノウハウの流用か)そこそこで、そのほかに弱い。
ワクチンも同様で、呼吸器系である肺炎球菌などに強い。
あまり安定性がないようだが、実は特化する疾患は「疾病負荷」でみると上位の疾患ばかりである。つまりマーケットが大きく・拡大つづける分野で強いという事である。
また分子標的薬剤(=超高額)が無いということは、裏を返せば(比較的)安価な薬のみで売り上げを建てられていること。これがどうしていいかと云うと、例えば財政的に貧しい(高額薬を導入しにくい)・大気汚染が深刻・人口の多いインド・ナイジェリアのような国でも売上しやすいという事である。
売上凋落のイメージから投資家に避けられている銘柄なのだが(だから割安・高配当株になっている)、その売上内容はそんなに不安定ではない。
出典元(企業の年次報告書・10K・その他)
グラクソスミス・クライン(GSK)年次報告書(英語:2019年、2018年、2017年)
コメント